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岐阜イノベーション工房2020 参加者レポート 第2回:株式会社林本店「“100年先のスタンダード”を考え 酒造りの新たな可能性を探索」

#岐阜イノベーション工房 #ワークショップ

岐阜イノベーション工房は、アート、デザイン、工学、社会科学など、多様な分野の教員と学生が切磋琢磨するIAMASという環境で醸成された手法のうち、イノベーション創出に有効だと考えられるものを短期集中で学ぶプログラムです。プログラムの前半では、主催者が演習用に設定した課題に取り組むことを通じて、いくつかの重要な手法を学びます。後半では、前半での学びと経験を基に、それぞれの組織における実際の課題に取り組みます。
このページでは3回に渡り、2020年度の参加者を対象に実施したインタビューを紹介していきます。第2回は、創業100年を迎えた日本酒製造事業を展開している株式会社林本店(岐阜県各務原市)の林里榮子さん、服部誠さんにお話を伺いました。
なお、昨年度までの取り組みについてまとめた小冊子を配布しております。このプログラムで学べる手法など、詳細について知りたい方はぜひご覧ください。
https://note.com/_kotobuki_/n/n355b205b8e91

第1回:羽島企画「現場からはじめる、地に足の着いたDX(デジタルトランスフォーメーション)」
第2回:株式会社林本店「“100年先のスタンダード”を考え 酒造りの新たな可能性を探索」
第3回:太平洋工業「新たな手法・ツール活用を通して 社内へ波及していくイノベーション活動」


伝統的な日本酒にこそ、イノベーションを

- 岐阜イノベーション工房に参加したきっかけは?

五代目当主 林里榮子さん

 過去に参加されていたOKB総研の長瀬さんに教えていただきました。
私たち「林本店」は各務原市の蔵元で、私は五代目当主として、日本酒の伝統の中に驚きや発見のある酒造りに挑んでいます。日本初となる乳酸菌を活用した「次世代無添加製法」で特許を取得し、健康志向の「無添加SAKE」にも力を入れています。
2020年に蔵が100周年を迎え、さらにここから100年先の酒造りを意識するようになりました。そこで考えたのが「100年後のスタンダードになるお酒を造りたい」。さらに新しいことをインプットして、未来を見据えたステップアップがしたいと思って申し込みました。
あとは「IAMASって面白そう!」という興味もありました。「情報科学芸術大学院大学」という名前も「情報」と「科学」と「芸術」という、共通項のあまりなさそうな3つが混ざっていて、不思議だと思っていました。

服部 イノベーション工房のプログラムを知ったとき、「酒蔵とIAMASが融合すると面白いことが起きそう」という期待感がありました。
日本酒は、伝統工芸のようなもの。我々は「芸術」だと思っています。でもIAMASの大学名にあるような「情報」や「科学」のイメージは、日本酒にはあまりない。そういう新たな切り口で改めて日本酒を見つめ直すきっかけになるのでは?と、参加を希望しました。

- プログラムを振り返って、いかがでしたか?

服部 課題がハードでしたが、とても勉強になりました。フィールドワーク、アイデアスケッチ、バリデーション、プロトタイピング…。聞き慣れないワードも多く、ワクワクしましたね。

服部 フィールドワークの観察については「そこまで追いかけるの…?」と思いながらやってました。
一歩踏み込んで一人を徹底的に観察するという手法は、定量的なアンケートではわからない深みや、Webで検索していては到達できないことまで知ることができたと感じました。

 バリデーションでも、一人に深くじっくり訊くという手法を教えていただきました。そうすることで、不特定多数の意見を集めるだけでは出てこないような、本質的で大事なことが浮かび上がってくる。これは新鮮な体験でした。
今もこの手法は実際の業務に活用しています。国内外問わず、お得意様へのバリデーションを繰り返す中で、今まで掴みきれていなかったことを得ることができていると感じています。

概念を破り、新たな市場、新たな挑戦へ

- 今回の実習プログラムの成果について教えてください。

服部誠さん

 当初は「100年後のスタンダードのお酒を造る」という目標でした。
序盤は酒造り前提で考えていたんですが、小林先生に「そもそも日本酒の枠にこだわりすぎなくても良いのでは?」と言われて、ハッとしました。酒蔵として、お酒を造ることしか考えていませんでしたが、もう少し広く捉えてみようと思ったんです。

服部 「嗜好品としての日本酒を造る」という大前提を外してみたことで、可能性が一気に広がりました。
日本酒はアルコール発酵によってアミノ酸や旨味を作り出していること、お酒をパウダー化する技術があることから、機能性食品や機能性飲料のようなものにできないか?というアイデアに発展しました。

 「アルコールの入っていない日本酒でもいいかもしれない」「日本酒を食品として摂ることもできる」という道が拓けたことで、「酒造りの技術を活かして、何か新しいことができないか?」という考えにシフトしたような感じです。
アルコール飲料の中でも日本酒はアミノ酸含有量が多いです。さらに当蔵の乳酸菌発酵製法によるお酒は、身体をつくるアミノ酸BCAAが一般的なお酒に比べてかなり多いことも、判明しました。
ターゲットは、健康志向で身体づくりに人一倍気を遣っているアスリート。アルコールを抜いてパウダー化し、アミノ酸BCAAや旨味が多く配合された、100%ナチュラルの健康志向な「新しい日本酒」を試作しました。

服部 アルコールがないからと言って、酒造りと関係ない事業ではありません。
アミノ酸や旨味が着目されることで、最終的には日本酒の美味しさや旨味、健康志向でナチュラルなお酒として、認知が広がると思うんです。
お酒を飲む人と飲まない人のあいだを埋めるようなプロダクトがあれば、次の100年に向かえるかもしれない、100年先のスタンダードを生み出せるかもしれない、と考えました。

 日本酒を飲む人はどんどん減っています。さらに新しい日本酒を出して狭い市場で戦うのではなく、日本酒を造る技術を活用して他のフィールドで戦えるのはとても画期的だと思いました。
それも、ケミカルなものが入っていない「100%ナチュラル」、自然由来でBCAAも豊富に含んでいるものは現状とても少なく、競合に負けないポテンシャルも持っています。それは酒造り由来ならではの強みでもあり、簡単に真似のできない付加価値でもあります。

今回発表した試作品

- プログラムの中で、印象に残っていることはありますか。

 小林先生がおっしゃっていた「我々はプロダクトを正しくつくっているのか、正しいプロダクトをつくっているのか」という言葉がとても印象に残っていて、何かに迷ったときに立ち返り、自分に問いただしています。
作り手ってとても真面目なので、常に「いいもの」を作ろうとするんです。でもそれはもしかしたら、消費者が求めているものとズレているかもしれない。モノとしてはちゃんと完成しても、どこかで的外れなものを生み出している可能性もあるんですよね。

服部 小林先生のその名言も含め、こうした考え方や手法を、実践的に学ぶことができたのは、私たちにとって大きな財産になりました。

 なんとなく聞いたことがあって知った気になっていたことも、実践することで身体に染み付いた感じがします。参加前はもっと座学が多いかと思っていましたが、意外と演習が多かったのもびっくりしました。

バリデーション演習の様子

日本酒の可能性を、さらに追求したい。

- 今後の展開や、展望について教えてください。

 発酵には、まだ解明できていないことがたくさんあります。これからの私たちのバリデーションの相手は、もしかしたら微生物たちかもしれません。
今よりさらに分析していくためにも、蔵の敷地内に日本酒のLABOをつくりたいと考えています。その名も「UMAMI LABO」。日本酒をはじめ、発酵食品や発酵の奥深さを発信できる場です。

服部 実験装置や分析するための機械なども入れて、本格的な実験室としての側面はもちろん、カフェのように気軽に訪れることのできる、サロン的な要素も備えたLABOにしたいですね。

 イノベーション工房で学んだことが、こうして新たな事業や場づくりのきっかけになりました。今回だけではなく、今後も何か考えるときや新たなものを生み出すときに、きっと今回の経験や、学んだ手法をその都度思い出すと思います。
私たちも進化をし続けながら、ここからまた、日本酒の新しい可能性を追求していきたいと思います。

- 岐阜イノベーション工房への要望や、今後期待することは?

服部 岐阜イノベーション工房を修了した人に、修了バッジやステッカーなど、証になるものが欲しいです。
このプロセスを学んだ人、同じ考え方を共有できる人と、一緒に何かできたら面白いですし、新たなイノベーションが生まれそうな気がします。
受講者同士の繋がりが、今後も続いていくと嬉しいです。

 

インタビュアー:後藤麻衣子(COMULA)


 

「岐阜イノベーション工房2021」の参加者を募集しています。Webをご確認の上お申し込みください。
https://www.iamas.ac.jp/news/gifuinnov2021-entry/
(締切:2021年7月2日(金)17:00)

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